新しい写真集の制作にむけて、暗室作業を続けています。写真集の内容は、過去約15年の間に撮影し続けてきた海辺の風景です。2011年3月の震災以降、継続的に足を運んでいる北関東~東北方面の太平洋沿岸部の写真は、これまでに池澤夏樹さんとの共著『春を恨んだりはしない』(2011年9月刊行)、ニコンサロンの企画展として開催した写真展及び私家版写真集『遠い水平線』(2012年3月刊行)、あるいは『考える人』(新潮社)の東北特集号などを通して発表してきましたが、これらの機会に発表した作品をふくめて、全国各地の海辺の写真をもあわせて再編集することになります。
ということで、集中的に暗室に入っていたのですが、あらためて海で撮影した写真を暗室で焼くという「体験」に驚いています。ゆらゆらと現像液の中に、水際に佇む人たちや、あるいは海の中に半身まで浸かった人たちの像が浮かび上がってくる。それをゆっくりと撫でるように洗い流している時、まるで人の身体に触れながら、その人の身体をもう一度洗い流していくような不思議な感覚に襲われました。
像が定着され水洗された後の印画紙はだんだんと乾いていくわけですが、完全に乾く前の、濡れた状態のプリントの方が、なぜだかとても美しいと思ってしまいました。
写真は海をくぐりぬけてこちらの世界にやってくるものなんじゃないだろうか。大げさにいえば、これはひとつの儀式ではないだろうか。
プリント作業はまだまだ続きます。1枚ずつ、丁寧に進めています。
(by iphone, In my darkroom, 2013.5.)
