しばらくぶりに「極東ホテル」(東京の南千住にある某簡易宿)に来ている。2010年3月に当時、清澄白河にあった赤々舎のギャラリーで写真展を行った後は、住んでいる町の海や日本各地の海の撮影を再開していた。(海の写真は、はじめてカメラを買った時から撮っているので足掛け10年以上になる。その中で、2011年は東北の海岸沿いに何度も行くことになった。この春に行った写真展「遠い水平線」と私家版の写真集は、2011年の海についてでもある。)
しかし、気持ちはいつも「極東ホテル」に戻っていた。
大きな震災が起こり、その直後は旅行者が大幅に減った。そして1年を経った今、少しずつ旅行者は戻り始めていた。僕は再びこのホテルに戻り、薄暗いロビーに腰掛けて世界各地から訪れる旅行者たちの姿を眺めている。
2011年を経て今、この国にやってくる旅人たち。きっと何かが変わっていて、それでも何かが変わらず続いている。このホテルも、僕自身も。
写真の面白いところのひとつは、いつでも始められること。決して終わることはない。もし自分が望みさえすれば。そして撮らない時間も、撮る時間と同じくらい大切だと思う。撮らない時間にどんなことを経験し、どんなことを感じたのか、そういうことも全て撮る瞬間に凝縮されて現れる。むしろ撮らない時間が撮る時間をつくるのかもしれない。だから続けること。撮り続けること。立ち止まったりしても、止めさえしなければ、またいつか思いがけない風景に出会える。親しい風景も新鮮に見えてくる。新しい旅をはじめよう。何度でも何度でも。