新宿のニコンサロンに、奥山淳志さんの写真展『明日をつくる人』を観にいく。
奥山さんはガーディアン・ガーデン主催の『フォトドキュメンタリーNIPPON』にともに選出された間柄。その時僕や奥山さんを含め15人の写真家がこのプロジェクトに選ばれたが、その中でも奥山さんの作品は、レセプションの際にお会いした奥山さんご本人のお人柄もあわせて、個人的に強く印象に残り続けていた。以来、僕はどこか心の中にいつも岩手県雫石の地で活動されている奥山さんの存在を感じてきた気がする。
久しぶりに拝見した奥山さんの写真展はとても素晴らしかった。北海道で自給自足の暮らしをなさっている井上弁造さんの姿を撮影し続けてきた奥山さんの10年間の結晶。また僕は奥山さんからとても多くの刺激と学びとを頂いた気がする。写真展の会場に記されていた奥山さんご自身の言葉を転載させていただきたいと思う。
人は常に「人生」に翻弄される。予定していたこと、計画していたこと以外の出来事に揺さぶられ、ときに傷つけられもする。それでも、自分の人生の主人公であろうとするならば、その出来事にまっすぐ向き合うしかない。そこで何かを得ることもあるだろうが、失うことの方が多いかもしれない。耐えきれないと思うことも多いだろう。それでも、気丈な精神で自らを律し続けることができるか。新しい夢を描くことができるか。何が待っているのか、わかりえない明日へと歩み続けることができるか。今、考えてみれば弁造さんに教えてもらったことは明日を作ることの行為そのものだったと思う。 (奥山淳志 『明日をつくる人』)
奥山淳志写真展『明日をつくる人』
会期:9/16 (火)~9/29 (月) 10:00~19:00(最終日は16:00まで)
会期中無休
会場:新宿ニコンサロン
2008.09.07 (Sun) パリの友人
混み合う金曜日の夜は、レアール、マレ、バスティーユといった繁華街周辺はどこも路上の駐車スペースがいっぱいで、僕達は随分と長い間クルマを流し続けなければならなかった。
1週間といっても、結局うち3日間は移動という慌ただしい欧州滞在。仕事の合間にこうして異国の町で友人に会うことが出来たのは、今の僕にとってはとても有り難かった。賑わう人たちを横目に狭い路地から路地へと半時間以上はぐるぐると回っただろうか、その間に随分いろいろな話をした。仕事を通してお互いよく知っているはずが、こうしてゆっくりと話をするのは初めてかもしれない。
今回の欧州行きは正直かなり気が重かった。いつもは独りで移動することには慣れているし、むしろその方が好きなのだが、今回は慌ただしい日程で忙しく動き回るようにと自分で意図して予定を組んで来た。そういうととても身勝手な風にしか聞こえないかもしれないけれど、そこに彼が居てくれるということは本当に有り難かった。今は親しい人たちと過ごす時間を少しでも多く持ちたかった。
僕達は最終的には結局ポンピドゥーセンター横の地下駐車場にクルマを止め、近くのカフェで遅い夕飯とビールにやっとありついた。それでもさっきクルマの中で話していた話題が続いている。パリでの暮らしについて、仕事のこと、将来のこと、そして今抱えている問題について。
ゆっくりと話す彼の言葉を聞いていて、僕はここのところずっと解けずに抱いたままだった謎が少しずつ解けていくことを感じた。そして彼にこのタイミングで改めて出会うために欧州に来たのだなと思った。そういう「流れ」なのだ。何か問題が起きることも、あるいはそれを解く鍵を拾うことも、やはり「流れ」なのだ。
「応に住する所無うしてその心を生ずべし。」
オーストリアに移動した後、彼から届いたメールにはこんな言葉が記されていた。
「心をひと所に止めず、そのときどきに応じて自由に動かせ。決して執着したままに留めるな」という禅宗の教え。そう、動かなければ、何も変わらないのだ。この言葉ほど今僕に必要なものはない。会えて良かった。ありがとう。
(by mobile phone, Paris 2008.09.05.)