2009.05.30 (Sat)  『8 Photographers Experiment』

明日から、新宿コニカミノルタプラザにて、写真展『風の旅人』が始まります。今日は夕方から設営。グループ展なので作品点数に限りが在ることもあり、展示に関しては新しいチャレンジをしました。それと、急遽、もうひとつグループ展が決まりました。しかも同じく明日がオープニング。どちらもどうぞよろしくお願いします。

写真展『8 Photographers Experiment』
参加作家:浅田政志、ARIKO、黒田光一、澁谷征司、高橋宗正、殿村任香、 旗手浩、鷲尾和彦
会 期: 2009年5月30日(土)〜6月28日(日) 12:00~20:00(月曜定休)
会 場: AKAAKA
     〒135-0021 東京都江東区白河2-5-10 TEL: 03-5620-1475
*オープニングレセプション: 5月30日(土)18時〜


(AKAAKAで設営中。2009.05.29.)



2009.05.25 (Mon)  写真展『風の旅人~今ここにある旅~』

今月30日(土)から始まる新宿コニカミノルタプラザでの写真展の準備で慌しくしています。【news】にも掲載していますが、改めてこちらでもご案内を。写真展と連動して、雑誌『風の旅人』に新作10点と自由詩を寄せていますので、あわせてご覧頂ければ幸いです。どうぞ宜しくお願いいたします。


東京写真月間2009 写真展『風の旅人~今ここにある旅~』
見知らぬ場所を訪れても、自分の眼差しが変わらなければ、旅とは言えない。同じ場所であっても、惰性に陥らずに物事をみつめ、新たな発見と触発を通して自分を入れ替えていく体験は「旅」と言える。この五人の写真家達は、通りすがりの土地で自分本位に風景を切り取るのではなく、一つの土地と長く付き合い、そこに生きる人々と心を通わせ、多くの気づきを得て、時と場所に関係なく連続する人間の営みの尊さを浮かびあがらせている。(『風の旅人』編集長 佐伯剛)

参加写真家: 有元伸也、奥山淳志、西山尚紀、山下恒夫、鷲尾和彦
会 期: 2009年5月30日(土)~6月8日(月)10:30~19:00(最終日は~15:00)
会 場: コニカミノルタプラザ・プラザ
主 催: 「東京写真月間2009」実行委員会
      社団法人日本写真協会・東京都写真美術館
後 援: 外務省・文化庁・東京都・マレーシア大使館 (予定)

※関連イベント:
   田口ランディ(作家)×佐伯 剛(風の旅人編集長)による公開トーク
  「いまここ、あるいは、ここではないどこか」

日時: 2009年5月30日(土)18:00~19:30
会場: コニカミノルタプラザ・ギャラリーC(参加費無料)
定員: 80名




2009.05.24 (Sun)  『MILK』

ガス・ヴァン・サント監督の『MILK』を観る。
同性愛者であることをカミングアウトした上で、米国史上初めて公職に就いた政治家・ハーヴェイ・ミルクの生涯を描いた作品。ガス・ヴァン・サント監督作品では『My Private Own Idaho』や、『Last Days』『Elephant』といったタイプの作品の方がどちらかというと好きなのだが、それに対して『MILK』は極めてストレートなストーリーテリング型の作品だった。しかし、反社会的だという烙印をおされたオルタナティブな生き方を社会的なムーブメントへと辛抱強く牽引していったハーヴェイ・ミルクの生涯にはやはり強く心を動かされないわけにはいかなかった。ハーヴェイ・ミルクの人生そのものが強烈な物語なので、その意味でとても丁寧にシンパシーを持ってストーリーテリングする今回のガス・ヴァン・サント監督のアプローチはその意味ではやっぱり正しいのだと思う。ここまでノーギミックな作品も最近は少ないのだし。そして何よりショーン・ペンの演技が本当に素晴らしく、この作品を映画館で観て良かったと思った。
ハーヴェイ・ミルクを殺害する市会議員の同僚ダン・ホワイトは、白人で、クリスチャンの洗礼を受け、元消防士で、家庭を大切にする良き父親という理想的アメリカ人像を象徴するような人間として振る舞っていた人物だったが、結果としてはとても簡単に衝動的な殺人者となってしまう。
ハーヴェイ・ミルクがその当時反社会的でマイノリティーであった立場から極めてポジティブなムーブメントを牽引し、ゲイに限らず、少数民族、あるいは社会的弱者まで、様々な立場にある人々の人権を擁護するより広範囲の社会運動が拡大する糸口をつくった一人であったのに対して、表向き「理想的アメリカ人」像を志向していたダン・ホワイトが、最終的には殺人という極めてネガティブな方向へと走らざるを得なかったというその対比。ダン・ホワイトはとても怒りっぽい人柄だった。非常に抑圧されているという印象。マジョリティの一員で、社会的には成功者で、理想的な人生や家庭や氏素性で、誇りも高い人間が、だ。
ハーヴェイ・ミルクは彼を一目見て「俺と同じだ」と直感する。一説にはダン・ホワイトはクローゼット・ゲイ(ゲイであることを隠している人)だという説もあるそうだし、映画の中の台詞もそのことを単にほのめかした台詞でしかなかったのかもしれない。しかしそこには、ハーヴェイ・ミルクがマイノリティだからこその感受性で見抜いた本質があったように思う。強い立場に立とうとするものは弱い立場の視点は見えない。見えているように思っているとしても、それは単に哀れみを勘違いしているだけだ。ダン・ホワイトには見えなくて、ハーヴェイ・ミルクには見えたもの。何が全うで、何が幸福なのか...。ハーヴェイ・ミルクを演じたショーン・ペンも、そして実在のハーヴェイ・ミルク本人も、とてもチャーミングな人物だったと思う。チャーミングな人の方がやっぱりいいな。
1984年に製作されたロブ・エプスタイン監督のドキュメンタリー映画『The Times of Harvey Milk』。これも当時アカデミー賞を撮った作品。こちらも近々DVDを借りて来て観たいと思う。


(映画を観る前に小田原までクルマを飛ばす。早川の河原で撮影中。)

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2009.05.19 (Tue)  スライドショー

日曜日のAKAAKAでのスライドショー、150人以上の方にお越しいただいたと聞き、とても嬉しく思っています。ありがとうございました。僕自身もとても楽しく過ごせました。また何人かの方から直接ギャラリーで感想を聞かせて頂いたり、翌日メールを頂いたりしました。心より感謝いたします。

今回のスライド作品は、この5年間に撮影してきたもの全てから選びなおしたのですが、結果的には昨年の7月以降に撮影した作品が殆どになりました。昨年10月の銀座ニコンサロン以降に撮影した未発表の作品もかなり多くなりました。なるべく新しい作品を、という意図もありましたが、それよりも昨年7月以前と以降とで、写真そのものが大きく変わったということが大きな要因です。撮り方も機材も全く同じ。もちろん撮影している場所も同じ。物理的な条件がすべて同じなのに写真が明らかに変わっています。僕自身には何故そうなったのか、その原因はよく分かっていますがここでは書きません。要は写真は偶然に撮れてしまうものではあるけれど、それでもそこに常に変化し続ける自分自身の現在形や、他者との関わり方などまでが写り込んでしまういうことなのだと思います。同じ場所、同じ条件で撮影しているという固定されたフレーミングゆえに、そのことがとてもよく見えてくる。我ながら不思議な感じです。結果的に、これまでずっと作品を見てきてくださった編集者の姫野さんや、石川直樹君や浅田政志君たちいつもの写真家仲間からも、いままで以上に良かったと言ってもらえたので、どんな経験でも、それは活きるものなのだと改めて感じました。

イベントの方は、写真家2人ずつが組んで、お互いの作品を上映した後に、少しの時間トークをするという構成で、僕は津田直さんとご一緒でした。短い時間だったけれど、津田さんとお話したのはとても楽しかったです。(関西弁だったのは、2人とも兵庫県出身だったからです。)
津田さんは世界各地を移動しながら作品をつくっているわけで、いつも東京の片隅にある外国人宿にとどまって撮影している僕とは、ある種正反対なアプローチなのですが、実は個人的には以前からとても共感を覚えていました。それは物理的な方法論ということよりも、世界との関わり方、そして何を見るのかということについてです。
僕の場合は具体的には世界各地から来た旅行者たちのポートレートですが、国籍や肩書、名前といった社会的な記号を取り払った先に見えてくるユニバーサルなものを見つけていきたいといつも思っています。例え一晩語り明かしたとしても写真が撮れない時は撮れないし、たった数秒すれ違っただけでも撮れるときは撮れる。そんなすれ違いざまの閃光のようなものの中にこそ、社会的に後付けされた記号や事情や、あるいはかったるい言葉を越えていく、世界的な何かが存在しているように思います。
そして、それを写真は写しだしてしまう。そこに写真を撮る快楽とか、スリリングさとか、あるいは自分が写真を撮る理由があるように思っています。
津田さんは自身のテーマに関して「写真は新しい言語である」と話されていました。そして僕の写真にもそのことは共通しているように思うと。僕も津田さんのその言葉に共感を覚えずにはいられませんでした。「ふたつの眼ではなく、ひとつの眼で倍の力で見ている」という僕の写真に対する感想も面白かったです。

北海道、ソウル、そして今回の東京とスライドショーをしてきましたが、毎回毎回が新しく新鮮です。今後も続けてやっていこうという話もあるようなので、またその時の機会を楽しみにしています。今月末からはコニカミノルタでのグループ展です。『ネイバーフッド』という新しいシリーズなので、ぜひこちらにも足をお運び頂ければ。どうぞ宜しくお願いします。

PS
ということで、2人で話していた時の写真を。津田さんのアシスタントの東さんが送ってくれました。東さん、ありがとう!

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2009.05.09 (Sat)  travelogue #19 西表島へ


(Iriomote Island, Okinawa. 2009.04.)


海からの風が木立を揺らし吹き抜けていく。
木漏れ陽が緑の芝生の上をまるで砂糖菓子を散らかしたようにきらきらと転げまわっている。
ちょうど1年ぶりに、西表島にある草木染織作家・石垣昭子さんのアトリエ、紅露工房を訪ねた。ここは僕にとっては「新しい一日」が始まった場所だ。そういうと確かに少し抽象的すぎるとは思う。でもそう、新しい一日を僕はここで迎えた。だからここには帰って来なくてはならなかった。

芝生の上に置かれた盥(たらい)の中では、抽出したばかりの紅露の染液が午後の陽の光を丸ごと呑み込んだように赤くひかり輝いている。
「紅露の赤茶色は、午後の陽の光を浴びると鮮やかさが増すのよ。光があることでこの色は輝くの。」不思議そうな顔をして盥の中を覗き込んでいたのだろう。昭子さんは少し微笑みながらそう言った。
昭子さんが島に自生する植物を用いた伝統的な染織に取り組むために西表島に紅露工房を開いたのは、今から約30年前の1980年のこと。自生する植物から色を、植物繊維から糸を。昭子さんが織り上げる布やその色彩の美しさは全て自然の恵みから生まれてくる。決して伝統に拘ったわけではない。ただこの島で機を織るのは女性としての日常であった。昭子さんはその生き方を丁寧に紡いでいこうとしてきただけだ。
「作家と呼ばれていると知るだけで嫌な顔をする人もいる。でもそんなことはどうでも良いと思うの。要は、美しさを、心を動かす何かを創りだせるかどうか、だけなのだから。」

物干し竿の上では色とりどりの布が風に乗って泳いでいる。琉球藍の透き通った深い蒼色。福木の目が覚めるような黄色。紅露の力強い赤茶色。そしてアカメガシワの軽やかな灰色。全てこの近くに自生している植物の恵みだ。
アカメガシワはさっき昭子さんに工房の裏にある薮まで連れていってもらい、一緒に採ってきたばかりだ。大きな鍋を沸騰させその中にアカメガシワの皮を放り込み、ぐつぐつと煮だす。その後、鉄媒染することで、信じられないほどの美しいグレーの色が現れる。
ユウナの木陰に置かれた瓶の中では、琉球藍が発酵している。緑色の植物から染料を抽出しても決して緑色に染め上げることは出来ない。琉球藍の瓶をかき混ぜると底の方には確かに緑色の染液が見えるけれど、表面に上がって来て空気に触れると、それは藍色に変色してしまう。緑色は見えるけれど手にすることは出来ない色、「あの世の色」だ。
小さな瓶が、まるで宇宙の神秘全てを飲み込んでしまっているようだ。僕はさっきから時めきを隠せないでいる。

植物はその生まれ育った土地や気候に相応しい環境で育てられ、最適な時期に採集された染液がもっとも美しく染まる。人は草木も、光も、風も、水も、何一つ創りだすことは出来ないけれど、その恵みを、その美しさを受け取ることならば出来る。それをもしも美しいと感じる感受性さえ持っていれば。
「ここには山、海、川がある。そして光も、風も、水も、土も。すべてが揃っている。だから色は自然に生まれてくるのよ。そしてもっとも美しく、もっとも心地よくあるためにはこの環境に素直であることが一番。それは人も同じね。」

芝生の上で心地良さそうに眠っている琉球犬の寝顔を見ながら、また新しい一日をはじめようと僕は思った。




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