2002.09.28 (Sat)  ビジネスショーに映像提供

某家電メーカーの方から、あるイベントで使用するための映像作品をつくって欲しいとの依頼を受け、この2週間ほどその制作を進めている。CEATEC JAPANという15万人以上もの人たちが集まるという巨大なビジネスショーにおけるその企業のブース内で、最新のプラズマヴィジョンに投影するための映像、しかも僕の写真をスライドショーのようにつなげて制作してもらいたい、というのがその依頼内容だった。彼は僕より1~2歳年上の人で、以前に全く別の仕事を一度ご一緒したことがある人だった。その時は映像や写真ということではなく、国内・海外のコミュニケーションビジネスに関するスタディがテーマだった。 伊東豊雄氏が設計した「せんだいメディアテーク」なんかにも一緒に訪ねたりした。
  今回は彼が僕のWebサイトを見て写真そのものを気に入り依頼してきた、ということが実際の経緯なのだが、 そのような旧知の間柄としてお願いされたこと以上に、彼から彼がこの機会で実現したいことを直に伺い、僕自身とても嬉しく感じたことがこのオファーをお引き受けした理由だった。
それは、典型的なビジネス(ショー)の場、もしくは広告プロモーションの場において、その商品特性を誇張して伝えるために制作された「デモ映像」というものが、実はそこに費やされた莫大なお金や人や技術の割にはすぐに消費され、結局は実際のユーザーや現場の企業スタッフのマインドにすら記憶されないものか、という点に、彼が一人の企業人としてささやかなアンチテーゼを投げかけたいというそのスタンスだった。彼自身はその大手家電メーカーの中で「情報」や「通信」というまさに時代の先端を行く仕事に携わりながらも、そのような機会をずっと狙っていたのだ。いわゆるビジネスショーというものは僕も一二度足を運んだことがあるが、巨大な会場に各出展企業がわずか2~3メートルほどの距離を開けて軒を並べ、いかに隣のライバル企業よりも目立つか、派手に見せるか、いかに自分達が「一番新しいか」ということをただひたすらに競い合っているという印象がある。 中にはコンパニオンのお色気作戦などという本質的には全く関係のない手法まで持ち出して競い合う姿まで見受けられる。 彼はそんなシーンを幾度となく見てきたのだと思う。そして何か自分の出来る範囲でアクションを起こしてみたいとずっと思ってきたのだろう。
そんなビジネスショーの一角で、ある一人の無名の写真家の作品をスライドショーにして投影することなど、凄く小さな演出のひとつなのかもしれない。もちろん3~5分間というそのひとつの映像作品を創ること自体には全力をあげたいと思う。しかし、「勝ち組」を目指すビジネスマンが集まる場所でそのようなものがどれくらい見られるのか、または何か感じる人がいるのかどうか、それは僕にもわからない。
「なんでも技術の話ばかり。でも、本当にはそこに何を映し出すのか、またどんな風に使ってもらいたいのか、そのことの方が大切だと思うのです。」 
それは「モノづくり」を真剣に考える人間として凄く正しい感性である気がした。もちろん彼以外にもそんな「モノづくり」の姿勢を持っている人は多いと思う。特にメーカーと呼ばれる企業に勤める人たちにはそんな人たちが沢山いると思う。しかしどうしてもそれを見せたり、伝えたりするときに、なぜか「過剰な広告」になってしまうのは何故だろう。
  僕はそんな彼の発想を凄く嬉しく感じた。だから今回の依頼をお引き受けした。 今週も平日は数日がほぼ徹夜、土日も費やされるだろう。でも僕は久々に面白いこの企みを全力で楽しんでいる。 ささやかだけど何かが起こるかもしれない。小さなことかもしれないが、変化はそういうものの積み重ねからしか起こらないのだから。



2002.09.25 (Wed)  

TVや新聞では相変わらず「デフレ」だとか「日本経済沈没まで秒読み」とか、そんな話ばかりだ。10年前は貯蓄する奴は馬鹿だといっていた経済学者たちも皆今は手のひらを返したかのような話しかしない。もう帝国主義なんていう手段も今はありえないわけで、そうなるとかっての英国のような緩やかな衰退なんてことすら期待できないのかもしれない。しかし、そんな話ばかり聞かせれていると気が滅入るのも確かだ。 経済学者がいうことは本当のことかもしれない、しかし彼らの言葉の中には、「文明」という言葉こそあれど、「文化」という言葉は出てこない。しかし、経済と文化が別の話になっていることにこそ、この国の衰退の大きな原因があるのではないのか、と某私立大学を5年かけて卒業した落ちこぼれは子供のような素朴な疑問を持ってしまう。 



2002.09.11 (Wed)  アッサラーム・アレイクン

朝一番で逗子まで車を飛ばし、神奈川県三浦郡葉山町にあるギャラリーまで東松照明 氏の写真展『アッサラーム・アレイクン』を見に行った。この写真展は、今から39年前、1963年のアフガニスタンを写したものだ。その頃は、まだソ連もアメリカもこの 地には乗り込んでいない。かってこの地を旅した人達から伝え聞く当時の印象は今僕達が知っているそれとは全く異なっている。羊やヤギを追う遊牧民とラクダの姿、バ ザールに集まる人々の賑わい、まるで桃源郷のような砂漠の中のオアシス。もちろん僕はこれらの風景を見ていない。僕がメディアを通して見た「まるで月のように何もない」といわれている現在の光景とは、その描写はあまりにもかけ離れすぎている。
  写真はそんなかってのアフガニスタンの風景を確かに写していた。中には、露天商の上に今風で言うならば「オープンカフェ」を設置し談笑する人々の姿もあった。 「当時でも辛い風景ね。女性にとっては厳しすぎる宗教だから」と妻は言った。確かにイスラム教は女性にとっては厳しい戒律が有ると聞く。常にブルカで全身を覆わな ければならないということだけでも確かに辛いな。 でも、僕はそんな彼女の言葉を聞きながらも、そこに写し出された風景に漂う人間っぽさみたいなものが気になっていた。遊牧民が行き交う姿には砂漠で生きる厳しさが確かに見えた。当時も物質的に豊かであるとは言えなかっただろう。しかしそのこと以上に、自分自身が持てるものだけを頼りに生きてきた彼らだからこその力強さや、「生きている」ことの確かさのようなものが強く僕の中に飛び込んできたのだった。
  人々の表情はやはり厳しかった。子供達の瞳は大きく、強い視線をこちらに向けてい た。 しかしそれは悲しみや憎しみや恨みによるものではない気がした。それはその風土の中で生きていく人の決意ような気がした。それは逞しさだったのだと思う。
  たった一度この写真展を見ただけで僕にはそれ以上のことは何も言えない。これも僕の勝手な印象でしかない。しかし、先達たちの言葉を信じるのならば、またこの写真展で自分自身で感じたことを信じていいのなら、それは確かに人がまさに生きているという実感を強く与える場所なのだと思う。そして、人が人として生きている場所である限り、1年前の今日から始まった出来事はあまりにもそのことを無視して行われたものだと思わざるを得ない。 TVや新聞を通して見たどんな映像よりもそのことを実感した。
  帰りの車の中、カーラジオからは、「第2のサマーオブラブを!」と今日代々木公園で実施されているイベントの主催者が叫んでいた。 討論会や詩の朗読、DJショーもあるそうだ。最後に「ラブ&ピース!」と叫ぶその軽い声を聞いて、何かが妙な気がした。 何故か、そこには生きていくことの確かさとか切実感を感じなかった。それは単に僕の穿った見方なのだろうか。 僕は今日見た写真展のことを親しい友人や家族に伝えようと思う。  一番身近で親しい、そして大切な関係の中で話を続けていく時間を持ちたいと僕は思った。



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