最近アンセル・アダムスという写真家が考案した「ZONE SYSTEM」という写真技法を学びだした。 撮影から現像、プリントまで一貫したシステムとして写真を制作するというもので、カメラやフィルム、印画紙の性能を最大限引き出し、「作品」としての写真の完成度を高めるという目的のものだ。
実は 僕は全くの自己流で撮影、現像、プリントを行ってきたわけで、一度も誰かに写真を教わったことがない。唯一、NY州にあるダニーライアンの自宅暗室で彼の製作中のプリントを見せてもらい、そのとき僕の写真を批評してもらったことくらいだ。勿論、様々な写真家の仕事、また写真以外にも音楽、映画、文学、旅、日常など、写真に向かう術や視点を養うものは人から教わらなくても身の回りに溢れている。テクニックを付けたいというよりも、常により自由に動き回れる基礎体力を高くしておきたいと思った。
こつこつと暫らくはそういう基本的なことに取り組んでみたいと思う。もちろん最後は結局自分の感性を信じて対象に向かっていくしかないのだが。
2002.12.26 (Thu)
郊外に引越ししてからというもの、渋谷や新宿や池袋といった東京の繁華街からはすっかり足が遠のいている。(といっても、そもそもそれらの場所に足を運ぶ理由が特になかったに過ぎないのだけど。)
今日は久々に仕事の合間に2時間ほどの空き時間があったために、表参道から渋谷・松涛あたりまで歩いてみた。街はすっかりクリスマスと忘年会のシーズン、いつもよりも騒がしかった。ほんの数ヶ月前には渋谷駅を毎日利用する生活をしていたというのに、今ではそんな光景すらちょっと非日常に思えてくる。逆にいえば、毎日ここを通過しながら生活していた時には、そんな過剰な喧噪をごく自然に思っていたわけで、我ながら人間なんて簡単なものだなあと思ってしまった。
そんな風につかず離れずこの街を歩くと、喧噪すらふと愛すべき人の営みとして見えてくる瞬間もある。勿論、やっぱりうざいな、何だか奇妙な光景だなと感じる瞬間もある。少しは客観性というのも身についたということか。その意味では今の文字通りこういう場所から「距離を置いた」生活っていうのもなかなか良いのかもしれない。
2002.12.20 (Fri)
JACK JOHNSONというミュージシャンのCDを繰り返し聴いている。彼自身ハワイに住むサーファーであり、サーファーを主題にした映像作品を撮るためにと自らがつくった音楽の方が先に世に認められたという人らしい。Gラブ&スペシャルソースの音楽から土臭さを薄め、その分潮の香りを濃くしたような音楽だ。音楽でもこのところ「ダウンテンポ」という名のスローな運動がはじまっている。(きっとそれは色んなカルチャーの中で必然的に、同時多発的に起こっているに過ぎないのだろうけど。) HMVで配られているフリーペーパーの中で人気アーティスト達が2002年のベストセレクションというのをやっていたが、その中でもこのJACK JOHNSONを複数の人が選んでいた。それほどまでに有名だとは知らずに聞いていたし、恐らく彼の音楽はあんまりFMラジオでもオンエアされないと思う。でもそんなフリーペーパーの記事を読むと、ひっそりとこうした流れが進んでいるのだな、と痛感あるいは確信するのだ。
僕の後輩で日比康造というミュージシャンがいる。JACK JOHNSONの音楽を聴いたとき、即座に日比の音楽のことを思い出した。二人とも共通しているのは、手作りの音楽の心地よさと純度の高い男の子らしさがその歌にこもっているというところだと思う。今年の夏に日比が小さななカフェで演奏した時の写真を改めて見て見ると、偶然にもその背景に『Endless Summer』のポスターが掛かっていることに気付いた。いつかJACKと日比はどこかで出会うのではないか、なにかそんな直感がした。
2002.12.13 (Fri) Sense Of Place
函館へ。 雑誌の取材で「情報デザイン入門」 の著者・渡辺保史さんを訪ねる。
渡辺さんが函館の仲間たちと進めている「ハコダテスローマップ」の制作ワークショップにも参加させていただいた。スローマップとは、地域の「スロー」なスポットを地域住民自らが足で発見し、新しい視点で自分達の街の地図を作ろうというプロジェクト。地域の魅力を掘り起こしその文化的な資産を再発見することを目指している。
「スローマップ」とは渡辺さんが作った言葉だが、その原型となる「グリーンマップ」という運動はNYCから始まり既に世界各国で展開されているそうだ。こうした動きが世界各国で、その地域に住む人たちの草の根の活動によって同時多発的に起こっていることに新しい時代の兆しがあるような気がする。
先日お会いした文化人類学者・辻信一さんから「センス・オブ・プレイス」という言葉を教えていただいた。「この場所で生きていくという感覚(センス)」は「グリーンマップ」や「スローマップ」にも合い通じている。そしてこの感覚(センス)こそが、明日への不安に満ちたこの時代におけるささやかな希望のように僕には思えるのだ。
2002.12.06 (Fri) Coldplay
新宿リキッドルームでCOLDPLAYのギグを観た。
本当に素晴らしいライブだった。シンプルだけど美しい楽曲と歌詞、そして飾らず真っ直ぐに歌を届けようという姿勢に貫かれた演奏。その姿勢はパンキッシュなファッションに身を包んだバンドや、どんな激しい演奏よりも「タフネス」という言葉が似合っていた。 途中、マイクもアンプも使わずに、生身の声とまさにUnpluggedされたアコースティックギターだけで彼らは1曲を演奏してみせた。「I can't go anymore, without you」と唄うその曲は本当に素晴らしかった。 そしてその姿はなんだかとても男としての色気を感じさせた。
不安ばかりが煽られる時代だけど、そんな今だからこそ、淡々と良い曲を書き、届けるということを続けていく彼らの存在は、とても僕をモチベートしてくれる。僕もそんな風に写真を続けていきたいと思う。