2012.12.13 (Thu)  渡りの季節

 初雪が降る頃には、もう冬の渡りの季節はとうに始まっている。あの阿武隈川の白鳥たちもやってきている頃だろう。記憶を頼りにいつか訪れた飛来地へと向かう。そこは住宅街の細い路地を抜けた先にある小さな河原。近隣の人たちが河原を整備したり、餌を運んだりした結果、白鳥たちが毎年律義にもこの小さな河原にやって来るようになったそうだ。しかしみぞれまじりの雪の中、やっとたどり着いたものの、白鳥たちの姿はそこにはなかった。あの日以来、手入れされることなく伸び放題になった薮が河原まで近づく道を覆い隠してしまっていた。
 阿武隈川沿いをさらに移動すると、少し開けた川岸に、20羽以上の白鳥とその何倍もの鴨たちが集まっている場所を偶然にも見つけた。灰色の羽毛をまとった白鳥の子も数羽交じっている。翼を広げ、伸び上がり、じゃれあい、のどを震わせ、水に漂うその白鳥たちの中に、右の翼が大きくねじれた一羽の白鳥がいるのに気付いた。
 翼の羽根が損なわれ骨が剥き出しになっている姿は、何本もの矢が突き刺さったように見える。それが何を意味するか記すまでもない。夏も冬もここを動くことなく、ときたま現れる人間たちから食べ物をもらい続け生きていくしかないだろう。一人の少年がその翼の折れた白鳥をじっと見ていた。その手には食パンが握りしめられている。
 「あの白鳥はもう飛べないかもしれないね」。え、そうなの? と少年は応えた。「でもこれはあっちの灰色の子にあげる。だってあの灰色の子はまだ子供なんでしょ」。そういって、少年はその白鳥から目を離した。翼の折れた白鳥から目が離せずにいる僕の中で、少年の言葉がぐるぐるとまわり続けた。

(産経新聞朝刊2012年12月12日に掲載)



(Fukushima, Fukushima, Japan. 2012.12.01.)



2012.12.04 (Tue)  高校生

先日出版された『高校生で出会っておきたい73の言葉』(PHP)という書籍に、この春に私家版としてつくった写真集『遠い水平線』の中で記した一節が掲載されています。編者は『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」の作詞などで知られる作詞家/詩人の覚和歌子さんです。先日、出版社から一冊送って頂きました。自分の高校生の頃というのは、心と身体と気持ちと現実と夢とがちぐはぐでバラバラで収拾がつく兆しすら掴めなかった、正直自分の中では一番無惨な日々でした(それは今もちっとも変わっていないかもしれませんが)。ただただ一人で音楽を貪るように聴き、早くここではないどこかに飛び出してしまいたいということばかりを考えていました。結局、高校の卒業式にも出ていません。この本に掲載された自分以外の72名の人たちの言葉を拝読し、もしもあの頃、この人たちの言葉に出会っていたならどうだっただろう、何かが違っていたのだろうか、とじっと考えてしまいました。勿論そんなことはよく分かりません。でも正直、読んで良かった。今この年で読んでもとても刺激的でした。数冊買って現役高校生の甥や今年大学生になった姪にもあげようかと思っています。それにしてもきっとこの本を買った人たちのほぼ全員が鷲尾和彦って誰だそれ?と思うんだろうなと思うと可笑しいです。
ちなみに、こんな人たちの言葉が並んでいます。

谷川俊太郎、アイルトン・セナ、法然、高杉晋作、高村光太郎、ラビンドラナート・タゴール、ジャック・プレヴェール、アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ、太宰治、アルフレッド・テニスン、岡本敏子、金子みすゞ、梅棹忠夫、星野道夫、こっこ、石川啄木、伊坂幸太郎、クロード・ドビュッシー、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ、草野心平、宮沢賢治、八木重吉、マハートマ・ガンディー、ウイリアム・シェークスピア、武者小路実篤、長田弘、アルベルト・アインシュタイン、大岡信、角幡唯介、孔子、覚和歌子、他。
 
 



2012.12.02 (Sun)  travelogue #69 "migratory birds"


(Fukushima, Fukushima, Japan. 2012.12.01.)


(Fukushima, Fukushima, Japan. 2012.12.01.)


(Soma, Fukushima, Japan. 2012.12.01.)

photos by iPhone4S.



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