実は日本を発つのが来週水曜日なので、それまではいくつかたまっている宿題にとりかかっている。今日は、先日お会いした遺伝子学者の中村桂子さんへのインタビュー原稿書き。
中村さんは『生命誌(bio-history』というコンセプトを掲げた研究活動をなさっていて、以前から著書を何冊か拝見していてとてもお会いしたかった方のひとりだった。
取材自体は少し前に、中村さんの成城学園にあるご自宅までお伺いして行った。中村さんの活動、そのテーマを象徴するようなとても居心地が良い素敵な空間で、全世界から(きっと自然と)集まってきたであろう様々な民芸品や調度品がさりげなくその空間に豊かな彩りを持ち込んでいた。お庭には、蜜蜂の巣箱が何箱か並んでいた。お話を聞くと、僕も先日お会いした岩手県の藤原養蜂場の藤原誠太さんのご指導によるものだとか。素直に子供のように「いいなあ」と叫んでしまった。
中村先生の原稿はまた近く発表される時に告知するとして、その中の一部を以下に抜粋しておきたいと思う。
『機械論的な世界観の特徴に「なんでも思い通りになる」という発想がありますね。
私は炊飯器を例に挙げるんですけど。薪で炊こうとしたら訓練しなければ上手に炊けませんよね。でも炊飯器は、スイッチひとつで誰でも思いどおりのおいしいご飯が炊けるように設計されている。でももし炊飯器の蓋を開けたときに失敗していたら、どれだけ腹が立つか。思いどおりになるに決まっていると思い込んでいるわけですね。
でも本当はこの世の中は、そんな風に思い通りになっていかないんです。
例えば子どもを育てることを考えても、子どもは生きものですから、思いどおりになんかなるはずがない。でも機械論的な世界観で暮らしていたら、もしも子どもが思いどおりにならないとイライラすることになる。思いどおりにならないのは、自分が悪いんじゃないかとイライラして、ときには憂鬱になって、悲しい事件にまで至ってしまう。
子どもを育てることは、時間を紡いでいくことであり、毎日毎日思い通りになっていかなくて面倒だけど、だからこそ面白いわけですよね。
思いどおりにならないということは、別の言い方をすれば、「思いがけないことが起きる」ということです。そして思いがけないことが起きるということは何よりとても楽しいことですよね。
人間としての進歩や、新しいことができたり、楽しいことがあったりすることの原点は、こうした思いがけないことが起こることにあると思うんですね。つまり、それは「驚く」ということだと思うんです。自然が魅力的なのは、そこに思いがけない驚きがあるからでしょ。
今は若い人の中でも、ちょっと思いどおりの型にはまった子だけがいい子みたいになって、思い通りにならなかったら、とても憂鬱になってしまうという風潮が広がり過ぎていますよね。若者は未来をつくる存在。でもそんな風に育った若者は、明るい未来をつくるという風にはならないだろうと思うんです。思いがけないことを楽しむという感覚。これも私たちとって大切な「生きもの感覚」なのだと思います。』
それにしても今日は朝から、まるで夏の終わりに逆らうかのような晴天猛暑の一日だった。
当然ながら家にじっとしれいることもできず、夕方出掛けた葉山の海で、橙色の陽が西の方から近づく颱風の雲の中にゆっりと飲み込まれていくのを見ていた。
観光客が少しずつ去り、やがて秋が来て、またあのINDIAN SUMMERがやってくる日を僕は待っている。「生きもの感覚」を目覚めさせる、あの日を。
2009.08.29 (Sat) Indian Summer (slide)
暫く日本を離れます。ということで、置き土産として、今度の韓国での国際写真フェスティバルで上映するスライドショー『Indian Summer』を。音楽は、気分としてはRed House Paintersがいい。
時間に余裕があたったら、日記更新します。では!
2009.08.25 (Tue) 多忙であることはありがたい
いよいよ写真集の制作が本格始動。週末は写真集に寄稿していただくことを快諾いただいた作家の池澤夏樹さんにお渡しする束見本を制作。そして明日は暗室で入校用のプリント作業。赤々舎の姫野さんも立ち会っていただけるとのこと。感謝。
それと、9月中旬からのULSAN INTERNATIONAL PHOTOGRAPHY FESTIVAL用に、『INDIAN SUMMER』のスライドショーを作り直した。今から8年前にもこのシリーズの映像作品をつくったが、その時は知人の映像ディレクターに頼んで、ホームビデオで撮影した動画と写真のスライドをミックスするという方法で作った。今回は自宅Macで、最新作品とを合わせたスライド作品としてつくりこんだ。
仕上がり具合を確認するために、iPodに出来立ての作品を詰め込み、電車の中で何度か見る。音楽が欲しいなとは思ったけれど、なかなかぴんとくるものがない。今回は音なしで行こうかと思う。そういうこともあるので、本当は時間がもう少しあったら自分で音楽をつくりたいところだ。
ということで、朝から異常に眠い。来週は4年目となるオーストリア行き。ロンドンにも久しぶりに立ち寄る予定。でも、その前に、明日の暗室作業がうまくいきますように。
2009.08.17 (Mon) ULSAN INTERNATIONAL PHOTOGRAPHY
韓国、蔚山(ウルサン)で開催されるULSAN INTERNATIONAL PHOTOGRAPHY FESTIVALに招聘されることが決まった。
「蔚山(ウルサン)は韓国南部の工業都市で、現代(ヒュンダイ)グループの本拠地。しかし文化やアートの面ではソウルや釜山に及ばず、これから積極的に盛り上げていきたいと考えています。そこで『Human and Environment』をテーマとした国際写真フェスティバルを立ち上げることにしたのです。」とキュレーターの方からのメールには記してあった。
韓国では一昨年、昨年と写真展やスライドショーを行い、沢山の韓国人の友人や写真家の仲間が出来た。こうしてまた招待されることは本当に心から嬉しく思う。
湘南エリアを撮影した『Indian Summer』は僕が初めての写真展を行ったテーマ。当時は東京からバイクに乗って湘南に通っていたが、今では結局移り住んでしまった。まだ写真を発表するということすら頭になく、ただ撮りたいと感じたものに素直にぶつかっていった結果生まれたのが『Indian Summer』だった。きっとこれが原点という奴であり、その意味で一番自分らしさが詰まっているシリーズかもしれない。
「写真」はまとめたら終わりではなく、いつでも始まり、そして続いていく。逆に言えば、永遠にまとまることなんてないってことないのだけれど、それでいいと思う。逗子に移り住んだ今でも『Indian Summer』は終わることなくずっと続いている。
ULSAN INTERNATIONAL PHOTOGRAPHY の開催期間は9月12日から9月27日。
もしもこの時期、韓国に出掛けられる方がいらっしゃったら、ぜひ足を運んでみて下さい。
(from『Indian Summer』)