2010.12.25 (Sat)  " We are seventeen "

クリスマスには不思議な幸運が訪れるものだ。いや、不思議な幸運が舞い込むからクリスマスなのかもしれない。

ずいぶんと長い間探し続けていた写真集、ヨハン・ヴァン・デル・クーケンの『wij zijn 17』がクリスマスの今日、ロンドンから届いた。何年も前からこの写真集を探し続けていたのだけど、いっこうに見つかることもなく。それがふと思い立って先々週ごろ検索してみたところ思いがけず1冊ロンドンのとあるセレクトショップが販売していることを知った。Paypal対応だったので、さくさくと申し込みを進めていくと数分であっさりと購入することが出来てしまった。あまりにもさくさくと購入、そしてシッピングの手続きまで進んでしまったので、なんだか騙されているような気すらしたくらいだった。
ロンドンからの輸送だし、UPSからは「少し遅れる」との荷物トラッキングメールが届いていたので、まあいつかそのうち届くだろうと思っていると、クリスマスの今朝いちばんで無事それは我が家に届いた。(届くまではやはりどこかで半信半疑な気持ちが捨てきれなかった。)
というわけで、まったく予期もしてもいなかったクリスマスプレゼントを受け取ったのだった。自分で注文しておきながらなんだか不思議なかんじなのだが、まるで自分ではない誰かがこっそり探し出して届けてくれたように思えた。そしてこの小さな古い写真集は、きっと今日、2010年のクリスマスの朝に僕の手元に届くことになっていたのだ、と。我ながらまったくもって手前味噌な妄想だな。でもそれが正直な感覚。

少しこの写真集について記しておくと。
『wij zijn 17』は1955年、オランダの写真家、ヨハン・ヴァン・デル・クーケン(Joan van der keuken/1938-2001)が17歳のときに、同じ17歳の少年少女たちを撮影した作品だ。ローライフレックスとモノクローム。タイトルは英語でいうと「We are seventeen」。この写真集を実際に手にしたとき、「そう確かにこの年なんだ」と思った。17歳。それは大人であり子供でもある年齢。僕自身でいえば、18歳は実家を離れ東京ではじめての一人暮らしを始めた年であり、16歳はサッカーやロックミュージックに何も考えずに打ち込んでいたやたら無邪気な年齢だったと思う。17歳はそうした少年期と青年期との狭間であり、つまりは中途半端であり、まったくの宙ぶらりな時だった。無邪気さと過剰なまでの不安とに揺れ動かされつづけていた。実際にこの『wij zijn 17』をじかにみて、果たして「まさにその年齢」が写っていたのだった。「永遠」の時間。そしてこれが当時17歳であった写真家(写真家と呼ばれることすら意識していなかった写真少年だったのだろう)が撮ったことに驚かざるを得なかった。それはとても17歳の視線には見えない。同年齢の少年少女をみつめるその眼差しは被写体に対して、親しくもあり、静かでもあり、そして優しくもあり、大きくもあった。それは17歳という年齢を意識させないばかりか、年齢そのものを感じさせない(少し大げさにいえば、超越している)ものだった。これは年を重ねた写真家だから撮れるものでもなく、また若いから撮れるものでもない。しかし、写真家は17歳のときにこの視線を獲得し、そしてこの一冊の作品集をつくった。この写真集自体が「永遠」なのは、写真家本人が17歳であったからだ。大人になったときには既にもう遅い。「We are seventeen」、そして17歳という「永遠」。それは誰ももう手に入れることもつくりだすこともできないのだ。時間の不可逆性を証明し、同時にその原理を無効にするかのようなこの作品を目の前にして、僕は改めてこの写真集に巡り合えた幸運に震えた。

実はこの写真集との今日この日の出会いに関して、もういくつかの不思議な偶然がある。

ひとつは、僕が今取り組んでいる新しいテーマとの関連性。実はこの秋から僕は何人かの17歳の少女たちに出会い、彼女たちのポートレートを撮影している。『wij zijn 17』とは方法論もテーマも当然違うし(もちろん僕は17歳の写真家ではない)、何より彼女たちを撮ることになったのも依頼仕事がきっかけだった。その仕事のために出会った何人かの被写体たちがみんな17歳だったのだ。僕はそのことが少し気になりだし、そして以前からずっと気になっていた『wij zijn 17』のことを思い出すようになった。しかし、その時は写真集の存在は知っていたものの、中身は実際には見たことがなく、どんな作品なのかも表紙と数枚の写真を除いてあまりよくは知らなかった。しかし、そうした偶然の出会いと撮影の機会を通して、いつもまにかなんとかしてこの『wij zijn 17』を手に入れないものかと、これまで以上に切望するようになっていった。それがこの11月ごろの話。そして1カ月余りというあまりにも短いピリオドで、実際にその希望が実現することになったのだった。

そして、もうひとつの不思議な偶然。
それは実はこのクリスマスイブの夜(つまり写真集が届く前夜であり、たった数時間前のこと)、懇意にさせていただいている編集者の方から「できれば早く会いたい」と連絡をいただき、それではぜひにと丸の内のレストランで急きょお会いしたところ、その方がおもむろに「鷲尾さん、この写真集好きではないですか?」と『wij zijn 17』をテーブルの上に差し出したのだった。偶然にも懇意にされている古本屋でこの1冊を見つけ、きっと僕が好きだろうということで「もしもまだお持ちでないのなら買い取りませんか、ちょうどクリスマスだし」といって持ってきて下さったのだった。この写真集は発行部数自体が少なく、かつ非常に古い写真集なので、なかなか手に入るものではない。実際に僕はずいぶん長い間探していたけど何年も出会えなかった。「確かにずっと探していたものです。それにしても驚きました。実は先日ロンドンで見つけたばかりで、もしも騙されているのでないなら、もう数日で届くはずです。」そう僕が応えると、その方もまさかと驚いたのはいうまでもない。

クリスマスには不思議な幸運が訪れる。不思議な幸運が舞い込むから、きっとクリスマスなのだ。
そして個人的には、あまり難しく考えることはせずに、こうした幸運をそのまま素直にうけとり、身をまかせるのが一番いいのではと思っている。これは何かの「暗示」なのだと、自分を「暗示」にかけたほうがいいと思っている。(正直、あまり深く考えて上手くいったためしもないし。)
なので、この際、僕はサンタクロースは本当にいるんだとばかりに、この幸運な出会いを真に受けたいと思う。はたして、それは何を意味するのか。それは言うまでもなく、今取り組みだした新しいテーマ、依頼仕事がきっかけで撮りだした新しいポートレートを、そのまま楽しみながら、より深く掘っていくことだと思う。きっとその先に何かがある気がする。


("wij zijn 17", 2010.12.25.)




2010.12.14 (Tue)  travelogue #48 "a little brown bear"

I have read "CARTAS A UN JOVEN NOVELIST" by Mario Vargas Llosa. It was so interesting, and useful for me and my works. Anyway, I met a little bear in the woods today.



2010.12.01 (Wed)  travelogue #47 "Butterfly"




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