2005.02.28 (Mon)  大英博物館

週末のことをもうひとつ。

ブライトンに出掛ける前日の土曜日は、宿泊しているホテルから歩いてすぐのところにあるBritish Museumに仕事仲間全員と出掛けた。朝10時ごろに着いてから、まあ各人好きに見ようぜということで、2時間後の昼食時に会う約束をして、それぞれ興味のある展示部屋へと散っていった。そして昼食時、館内にあるレストランでまた集まった4人と話しをすると、本当に興味の先が違うことが分かって面白かった。Sさんは「エジプト」。I君は「先史時代の欧州、特に英国」、F君は特別展の「ミイラのつくりかた」、だった。「エジプト」に興味がひかれたSさんは、そこに他では見られない宇宙的なものを感じたから、ということだった。I君は英国に長年住んでいた経験もあったことが影響しているようだった。オカルト・ファンのF君(マニアというと、怒る)は当然の結果としての「ミイラのつくり方」だった。

さて、僕自身について。僕は特に2つ、ひとつは「アジアの宗教」、そしてもうひとつは「アラスカ」。アジアの歴史に関しては、国、そしてインドなどの場合は地域ごとのコーナーが細かく分けて設けられていて、それぞれの地域ごとの宗教、特に神仏像や宗教儀式で用いる道具などで見せていた。この展示コーナーをぐるっと巡ると、まるでアジア中を旅しているような感覚になった。神仏像を通してその地域独特の宗教観や生活観が垣間見れるような気がして面白かった。チベットという国が明らかに他のエリアとは違うことなど、本を読んでは分からないことが少し見えたような気がした。勿論、本当は行かないと分からないことばかりなので、次はアジアの国を巡る旅をしたいなと思った。

もうひとつの「アラスカ」は気をつけないと通り過ぎてしまうほどの小さな展示コーナーだった。でも僕はここで一番長く過ごしたかもしれない。漁をする人々、熊、狼、鯨、海豹、カリブー等の姿が掘り込まれた狩猟の道具を見ていると、なんだかその風景の中に立っているような不思議な感覚に包まれた。目の前に掘り込まれた風景と、この博物館に僕が立っている僕とが時間と場所を越えて不思議なリンクをしているような感覚。多分、目の前にある風景は今でもそこに在るに違いない、何かそんな妙な確信。そんなものがさーっと僕の中に浮かんできた。まるで映画や写真、いや時間と場所を超えることが出来る超高性能の望遠鏡を覗いているような感覚。
 British Museumは大海賊・大英帝国が世界中から略奪した結果を収めたアーカイブだといえるのだが、イヌイットの狩猟道具を見ていると、何だかそんな物質的な発想では到底手に入れることが出来ないものが確かにあるんだということを改めて感じることが出来た。それはアラスカに限らずきっとどのエリアについても言えることだと思う、ひっそりと展示された「アラスカ」のコーナーは、言ってみればその一例。その展示がささやかなものであるほどに、逆に強くこうした印象を僕に与えたのだと思う。
アラスカにもいつかは行ってみたいと思う。



2005.02.27 (Sun)  ブライトン

週末は仕事仲間も皆それぞれの時間を過ごすことになった。
ウィークデイ、ロンドン市内での連日のミーティングが非常に濃いものだったし、週末を同じ都会の中で過ごすのも疲れそうだなと思い、気分転換に列車に乗ってBrightonまで出掛けてみることにした。
ロンドン市内から南へBritishRailwaysで1時間ちょっとにある海岸沿いの町。僕は1999年に英国南部を2週間ほど車で旅したことがあり、Brightonにもその時に立ち寄ったことがある。その時は真夏の7月、車で英国の田園風景の中を走り続けるのは本当に心地よく、童話のような風景の中、古いB&Bばかりを泊まり歩いていたこともあいまって、その時の旅全体がまるで夢だったかのような不思議な記憶として残っている。

出発駅のVictoria駅まで行くと、日曜日は直行便がないらしく、途中のHayward Heath駅でバスの乗り換えていくしかない、とのこと。確かに少し手間取ったがそれでも昼過ぎにはBrightonのビーチに着くことが出来た。冬だというのにビーチサイドには多くの人々が集まっていた。

アーケイドゲームに熱中する子供達、観光客の集団、バスケットボールを楽しむ学生、ジョギングする人たち、その横をゆっくり散歩している老夫婦、朽ち果てた桟橋の前のビーチに座っているカップル。Brightonビーチは砂浜ではなくて石ばかりのビーチだが、潮に洗われて丸くなった石の中でも更に球に近い小石を探して僕はずっとビーチサイドを歩き、そして何枚かのイメージを撮った。貝殻を拾い耳に当てて海の音に耳を澄ませているインド系の少女、一人で小石のビーチの上に寝そべって煙草を吹かしている青年、朽ちた桟橋の影...。静かな風景をモノクロームフィルムを詰めた小さなカメラで撮影した。(それらは日本に帰ってから現像しないと見れないのだけど。)

冬の強い風の中ではさすがに長居は出来なかったので、暖をとろうと近くの土産物屋に入った。「今度は夏に来た方がいいよ」とその店の店員にいわれたが、それでも僕はちょっと満足した気分だった。夏の良さと冬の良さ、僕はこの町の両方の魅力を垣間見ることが出来たのだから。

ロンドン市内への帰り道。来た時と同じようにバスに乗り込みHayward Heath駅へと向かう途中Brightonの中心街から北にある緩やかな丘の上を通りかかった。そこでバスの窓の向こうに、沈み行く夕陽を見た。通りに面した家並みは全て窓をその方向に向けて建っていて、それらは一斉にオレンジ色の夕焼けを映し出していた。バスの窓からその風景を見ていた時、電話が鳴った。仕事仲間から今晩の夕食はどうする?という電話だった。あと1時間ちょっとで戻るからと言いながら、このままここで途中下車してしまったらどうだろう、とふとそんな考えが僕の中に浮かんできた。



2005.02.25 (Fri)  ロンドン 3日目

金曜日の夜も深夜までミーティング。火曜日にロンドンに着いてから非常に濃い日々が続いていてさすがにちょっと疲れた。BoomBoomSatellitesの原稿を日本と何度かやり取りしながらようやく完成させる。それもこちらでミーティングに出る直前の毎朝5時頃からの仕事。仕事仲間と出掛ける昼飯と夕飯が唯一息抜きの時間なのだけど、幸運にも金曜日の今日は昼も夜も「当たり」だった。旨い飯を食べられることがどんなに幸せなことなのかを痛感。




2005.02.24 (Thu)  ロンドン 2日目

朝から霙交じりの小雨が降り続く。午後から夕方まで数件のミーティング。その後夕方6時過ぎにカーナビーストリート近くにあるThe MILLを訪問する。
The MILLは映画、ミュージックビデオ、CMなどのポストプロダクションを手掛ける会社、特に彼らの3D技術は世界的にも評判で、数年前には映画『グラディエーター』でアカデミー賞も獲得している。後輩の飯沼君の妹がThe MILLに勤めているということで、特別にオフィス内を見学させてもらった。すれ違うスタッフの人たちは皆にこやかな人たちで、超多忙で徹夜続きの人たちも見知らぬ訪問者の僕らに笑顔で応えてくれる。好きな仕事に生きてる人たちなのだなと彼らの表情から直ぐに分かる。忙しいことを言い訳にしかめっ面で働いている日本人とは大違いだ。忙しくても少々大変なことがあっても、笑いながら働きたいものだ。
The MILLでプロデューサーとして働く飯沼君の妹は、クリス・カニンガムとの仕事が2時間前に決まったばかりで少し興奮気味だった。彼女も交えてそのまま今夜は仲間4人で日本料理店へ、湯豆腐をつまみながらの楽しい一夜になった。



2005.02.23 (Wed)  ロンドン初日

ロンドン。
空港からホテルへ直行。出発間際に行ったBoom Boom Satellitesのインタヴュー原稿を部屋で書き続ける。 夕飯のために外へ出た帰り道、Sainsburyというスーパーで、DOVESの新譜を買って部屋に戻る。VirginMegastoreよりも2ポンド安かった。 
店を出ると粉雪が舞っていた。




2005.02.19 (Sat)  ホームパーティー

引越してから初めてのホーム・パーティー。両親、兄夫婦、甥っ子が集まる。
ビールもワインもウイスキーも空けて、最後は、芋焼酎「鷲尾」!
限定生産だそうで、去年探しまくってようやく奈良の酒屋さんから仕入れた。
今日は特別美味かった!




2005.02.18 (Fri)  Sim Redmond Band

Sim Redmond Band にインタヴュー、そして写真撮影。
彼らが住むNY州のIthacaという街はNYCから車で5時間の場所。 メンバーいわく「10マイル四方を世界の過酷な現実に囲まれた、アメリカ最後のオアシスのような町」。
コミュニティが未だにしっかり残っていて、アートや音楽への住民の関心が高く、優れたローカルバンドが山のように居て、お互いにセッションを繰り広げているような町。もしそれが本当に存在するとしたらぜひ訪れてみたいと思った。
最近は毎朝、彼らの最新作『Shining Through』を聞いて出掛ける。とてもポジティブな気分になる。ハーモニーが絶品だ。耳に聞こえる音のハーモニーと、耳には聞こえない彼らのライフスタイルとしてのハーモニー(調和)。2つのハーモニーがこのアルバムにはある。今晩渋谷O-Eastでのライブも最高に心地良かった。
生き方が表現に現れる、またそんないい音楽に巡り合えた。感謝。



2005.02.14 (Mon)  佐野元春 『THE SUN TOUR』

千葉市民会館で佐野元春さんのライブを観る。近々某メディアの取材で佐野さんにインタヴューさせていただくことになったのだが、インタヴュー前にと、ツアーファイナル直前の公演を観ることが出来た。

はじめて佐野さんの歌に出会ったのは、僕がまだ中学に入りたての頃のことだった。
パーソナルな視点から都市生活者の日常を描き出す佐野さんの楽曲はロマンチックであり、そしてクールだった。丸坊主の野球少年にとって彼の存在は、まだ見ぬ世界を一足先に漕いで渡る航海士であり、世界に散らばった様々な「物語」を掻き集め、そっと運んでくれる吟遊詩人のような存在だった。
彼の「物語」を通して、例えばジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグといったビートの詩人達、フィッツジェラルドやマーク・トウェインなどの作家達、またバディ・ホリーやチャック・ベリーを初めとする偉大なるロックミュージシャンたちの存在を僕は学んでいった。彼の歌は世界に向かって開いたパーソナルなメディアでもあった。

何年かぶりに観た佐野さんのライブは、彼がアーティストとして活動してきた年月の分だけ、その「物語」の世界は豊かに広がり、彼が一人の人間として生きてきた年月の分だけ、言葉はシンプルに核心的なものになっていた。

2度目のアンコール、今日のライブの最後の曲に彼は二十歳の時に書いた曲ですといって『SOMEDAY』を唄った。この曲を10年以上ぶりに聞いて、ここで唄われている歌詞がとても生々しく、強度を増していることに気付いて僕は驚いた。それは彼がこの曲の「物語」そのものを生きてきたためであり、そんな生身の経験の経た上で再びこの曲を唄っているからであり、そして会場に足を運んだ観客一人ひとりが同じく自分にとっての固有の「物語」としてこの曲を育んできたからなのだと思う。
それは決して懐かしさに感傷的になっているのではなく、目の前で歌の「物語」の謎が解けているのだという、とても生々しい感覚だった。 

「歌は育っていくものなんですね」と、楽屋口で佐野さんに話したら、彼はニコッと笑って「いつでもそうなんだよ」と僕に言った。
「育む」ための時間を惜しんだり面倒くさがるような時代において、そんなゆっくりと満ちていく時間、それに携わる人たちが集う光景に居合わせることが出来て僕は本当に貴重な経験をしたと感じた。それはまるで夜中の道端に忘れられた希望の欠片を手にしたような気分だった。



2005.02.05 (Sat)  マウンテンバイク

ようやく少しずつダンボールが片付き始め、家の中が落ち着いてきた。
暗室づくりはまだまだで、4畳ほどのスペースにはネガやらプリントやらが
山積みになったまま放置されている。アンテナに繋がっていないテレビは時々
昔買ったNineInchNailsやビヨークのDVDを見るくらいで殆どスイッチを入れていない。
マスメディアに接するのは、引越し以来しぶとく勧誘のためのサービスとして宅配してくれる朝日新聞に目を通すか、時々インターネットを見るくらいだ。
もっぱらキッチンのテーブルに座って本を読んだり、音楽を聴いている。

そもそも田舎町だし、クルマが通行する一般道からも離れた場所なので、夜はとても静かでひっそりとしている。朝も風に揺れる雑木林の木々の音や鳥の鳴き声くらいしか聞こえてこない。普段目に見えるもの以上に、夜や明け方に感じる音や気配から環境が変わったことを実感する。

今週は新しい自転車を買った。
これまで400CCのバイクを乗っていて都心での暮らしにはとても重宝したのだけど、そいつは昨年後輩の男の子に譲り渡してしまった。近所の自転車屋で安くなっていたマウンテンバイクはGary Fisher製でちゃんとShimanoのディスクブレーキも付いている。毎日家の前の坂を上り下りするにはバッチリだ。こういう場所に越してきたからには、自転車に乗って自分の足でペダルを漕ぎながらあちこちうろついてみたい。
それがこの土地と親しくなるには一番の方法だと思う。




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