昨年参加した「ニコンサロン連続企画展 Remembrance 3.11」の図録が出来ました。一般書店では販売しないとのこと。ニコンサロンのみ限定500部。参加した写真家は、石川直樹、和田直樹、笹岡啓子、田代一倫、新井 卓、鷲尾和彦、吉野正起、宍戸清孝の8名。今日、久しぶりに新井さんにお会いできて嬉しかったです。僕にとっては時々会わないといけない人なのです。何を話すという以上に、そういう人がいてくれることは本当に励まされます。本図録のデザイナー、須山悠里さんにもお会いできました。ずっと気になっていたデザイナーの方でしたので、お話できて嬉しかったです。渚の写真のことをお話していたところ、網野善彦さんと司修さんによる「河原にできた中世の町―へんれきする人びとの集まるところ」という書籍を教えてもらいました。網野さんの著書は随分読んでいましたが、この本は知りませんでした。極東にあるホテル、渚に集う人々。たしかに「へんれきする人々の集まるところ」ばかり、僕は撮っている気がします。

この冬一番の寒波が降らせる大粒の雪が鈍色の海へと吸い込まれていく。もうすぐ2年が経とうとしている。そのあいだに何度この海を訪れたことだろう。昨年末に東京での公演を観たことがご縁で、「気仙沼演劇塾うを座」の練習風景を拝見する機会を頂いた。降り続ける雪の中、練習場である気仙沼駅前にある公民館へと向かった。「うを座」に参加している小学3年生から高校3年生まで7人の子供たちが待っていてくれた。
「今だから、あなただから、伝えられることは何? あなた自身はどう変わったの?」
3月末の公演に向けての練習の初日。子供たちを指導するKさんは、半日をかけて、そのことをひとりひとりに問いかける。子供たちはKさんが投げかける言葉に真っすぐに向き合い続けていく。
子供たちも、大人も、私たちはみな同じ壁に突き当たっている。どうして私たちは忘れてしまうのだろう。どうして言い訳ばかり探すのだろう。まだ間に合うだろうか。「あなたたちが感じていることはどれひとつ間違ってはいないの」
5時間が経とうとしていた。外はすっかり陽が陰り、積もったばかりの柔らかな雪の上に蒼い影を落としていた。
「人に頼ってもいいんだと思いました」「やりたいことはやりたいって言えるようになりました」「思いを伝えたいという心が大きくなりました」
今ここで生まれようとしているのは、新しい「コトバ」の萌芽かもしれない。時がもたらす忘却に抗い目の前にある分厚い壁を突き破ろうとするそれは、とても小さくて消え入りそうだ。だけど、未来を呼び寄せるのは、そんな小さなものたちなのだと信じている。
(産経新聞朝刊2012年3月6日に掲載)
(Kesennuma, Miyagi, Japan. 2013.02.24.)
