Dear E
Long time no see
but your songs.

(Seven Sisters, England. 2012.09.22.)

1年ぶりに宮城県山元町に足を運んだ。あの時、海辺から僅か数百メートルにある八重垣神社に押し寄せた波は、拝殿も、鳥居も、そしてぐるりと神社を取り囲んでいた樹々をもすっかり流し去った。鎮守の杜(もり)の再生を願う人々が集まり、植樹が行われたのはこの6月の終わりのこと。その小さな苗木をどうしてもこの目で見たいと思っていた。9月、仙台から八重垣神社に真っすぐに南下した。
むき出しの大地の上、ぽつりと置かれた小さな仮本殿とプレハブの社務所を取り囲むように、小さな苗木たちが植えられている。それは、絶えず飛んで来る砂つぶを受け止めながら、かろうじて周囲との境界をつくっていた。
宮司のSさんにお会いする。この神社に以前から来たかったことをお伝えすると、「いつもここに居るとはかぎらないんですけどね」と軽やかな笑みで出迎えてくださった。
津波でここから流された神輿(みこし)が、氏子の元総代長の自宅に流れ着いたこと。杜の再生のために植樹を指導されることになった宮脇昭教授の植林に関する著書を、偶然にも震災発生直前に読みはじめ勉強されていたことなどをお伺いする。「ここではいろんなことが重なっていくみたいです」
新しい杜が生まれるんですねという僕に、「みんなが集まるところ、そして理屈もなく笑える場所でありたいですね。これまでも、これからも」。今年の夏祭りにも今まで以上にたくさんの人たちが集まった。「天国と地獄っていうでしょ。でもそれは外から眺めただけでは分からないんです」。強い風が吹き続けている。砂ぼこりが舞う中で、日差しに照らされたSさんの微笑は、とても深いところから静かに湧き出てくるさらさらとした水のようだった。
(産経新聞朝刊2012年10月3日に掲載)
(Yamamoto, Miyagi, Japan. 2012.09.15.)
