鷲尾和彦

「櫂」 paddles

ル・クレジオさんに初めてお会いしたのが、ちょうど2年前の今日、2013年12月20日。やっと2人で写真集に署名とメッセージとを入れあい交換することが出来た。
感謝の気持ちは書いても書ききれないし、これからのことを考えると、何かそれだけでは足りない気がしたから、考えた末に、一文字だけ「櫂」と書いた。
左右の二本の櫂を操りながら、波の力、風の力、船に乗り合った者同士の力、多様な力を読み、それらを合わせることで、ひとつの海を渡る。それはこの1冊の写真集を通して、異なる場所、異なる世代に生まれた私たちがやろうとしたことのように思える。
同じ船に乗り合わせることへの感謝と敬意、そしてまだ続くこの航海への希望。そんな気持ちを込めて、この言葉を記そうと思った。この写真集が手にして頂いた方にとっての「櫂」のような存在であってほしいという願いもある。
拙い英語で話したにもかかわらず、ちゃんと受け取って頂いたことを感じて有り難かった。
金曜日の日仏会館での講演では「芸術は様々な力が融合したものであり、それは歌のようなものだ。目を閉じれば聞こえてくる、それが芸術だ」とおしゃっていた。今日の東大では次作についての会場からの質問に「私はまた繰り返すことにする」と。そのことに深く共感した。新作「嵐」の後書きで翻訳者の中地先生が書かれていたように、「それは変奏しながらも続いて行く」。「Répétez」ではなく「variation」なのだ。その通りだと思う。
来年2016年夏の展示に向けて。また次の章へと、再びともに漕ぎ出せる。
 
 
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