鷲尾和彦

「舵手」の肖像

ライブコンサートに行くのは本当に久しぶりだった。最後に行ったのはいつのことだったか、パンデミック発生以前であるのは確か。そういえば友人と行こうと思っていたNEWORDERのライブがキャンセルになったことを思い出した。
横浜・新山下のベイホールまで、七尾旅人さんの『Long Voyage』ツアーファイナルを観に行った。かってグラムスラムというプリンスが監修したというクラブを改装したライブハウス。港沿いの年季の入ったこの箱はとてもいい表情だと思った。ライブが始まる前、すぐ裏手にある港で、貨物船やヨットを長い時間眺めていた。そのままの気分でライブが始まると長い航海が続き、音の中に漂い続けることがとても気持ち良かった。時折、鞄の中のライカに手は伸びることはあったものの、押し寄せる音楽に身を委ねることの方が遥かに心地よく大切だった。しかし、アンコールで彼が譜面台を前に椅子から立ち上がった時、瞬発的にライカをとりだしシャッターを切っていた。多分、数秒間。これは僕らの現在の、「舵手」の肖像だと、その時撮った写真を見て思った。七尾旅人さんのアルバム『Long Voyage』は、僕にとってはパンデミックという危機の時代を象徴するアルバムになったと思う。新しい航海へ。