鷲尾和彦

”Wing” 

Soundwalk Collective with Patti Smithによる『CORRESPONDENCES』展(エキジビションおよびライブパフォーマンス)を、日本と韓国の両方で体験してきました。ソウルでの展示は、東京とは会場の構造が異なることもあり、より親密な距離で作品を体感することができました。
いくつもの部屋を巡りながら、作品を通して私たちが直面している現実について向き合い、そして最後に辿り着いた屋上庭園で、パティさんが書き綴った小さなメッセージを読んだとき、そこに答えがあるわけではないけれど、それでも可能性は私たちの中にまだ存在しているのだと感じました。ソウルの会場には、多くの若い女性の方々がつめかけていたことも、とても印象に残っています。
そして、その集まった人々の目の前で、一人で「Wing」を歌ってくれたパティさんの肉声が今も耳に残っています。少女のような繊細さと力強さを併せ持つその声を聞きながら、空中にイメージを描くように動く彼女の指先を見つめていました。
 
”And if there’s one thing
Could do for you
You’d be a wing
In heaven blue”
 
幸運にも、彼女と会話する機会がありました。それで、初めて読んだ彼女の『The Coral Sea』という詩集のこと、その後、海の写真をずっと撮っていること。写真よりも多くの詩に影響を受けてきたこと。彼女は東日本大震災発生時の支援活動のことを思い起こし話してくれました。そしてポートレートを撮影する機会を頂きました。
サウンドウォーク・コレクティブの創作プロセスについて直接お話をお伺いできたことも非常に価値ある経験でした。世界そのものを探索することによって生まれるサウンドスケープとそのアプローチには深い尊敬の念を抱きました。この経験は、私の旅を続けるための励みになりました。
現在、東京都現代美術館で『CORRESPONDENCES』展は開催中です。東京でのオープニングには、次女(11歳)と一緒に訪れましたが、彼女もしっかりと映像と詩の内容を感じ取っていました。世代を超えて響く作品であることを感じ、私自身もあらためて深く胸を打たれました。次女の手を握り「You’re so beautiful girl」」と優しく話しかけてくれたことは、きっと彼女が年を重ねていく中で、どこかで支えになるのではないかと思います。
警鐘は鳴りやまず、風景と言葉は何度も繰り返されます。その余韻の中で、出会った人々のことをこれからも幾度となく思い返すでしょう。心から、皆さんに感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。