鷲尾和彦

A place to belong


 
Photo Exhibition 『A place to belong』
Date: 2025.10.24.fri. -11.1.sat.
Place: SHONAI HOTELSUIDEN TERRASSE
 
デンマークの首都コペンハーゲンは、2025年「世界で最も住みやすい都市ランキング」*で1位に輝いた。経済、ウェルビーイング、福祉、環境先進性、そして教育の充実度など、あらゆる側面が高く評価されている人口約67万人の都市である。歩きやすい街並み、自転車の利便性、環境に配慮した公共空間、そして市民の高い環境意識一その原点は、1962年に中心街「ストロイエ」で行われた社会実験にさかのぼる。
まちづくりのキーワードは「生命中心(Life Centered)」。小さな試みを積み重ね、市民の声を反映しながら、街は少しずつ形づくられてきた。科学的手法と市民参加を組み合わせたコペンハーゲンのまちづくりは、現在、日本をはじめ世界各地から注目を集めている。
本展では、そうしたコペンハーゲンでのフィールドワークの成果を、6枚の写真(風景)を通して紹介している。
 
・欧州で唯一とされるLGBT 高齢者施設。「変わらぬ日常がずっと続くこと」がその運営理念。
・新しい開発エリアに設けられた都市農園。小さな「余白」が街を育む。
・古い教会を改装した共同食堂。ダンスやヨガ教室も開かれる、まるで「公民館」のような場所。
・港湾部近くの運河を市民のプールに。科学的な水質改善によって実現した新しい公共空間。
・自然保護を訴えるデモ。若者から高齢者、家族連れ。多様な人々が声を交わし合い街へと広がる。
・公園のように広がる墓地。人と人、人と自然との距離が近く、春にはピクニックを楽しむ人々の姿も。
 
街(まち)とは、他者とともに時間と空間を分かち合う場所である。その魅力は、「わたし」と「わたしたち」が出会う居場所(a place to belong)の豊かさにある。コペンハーゲンには、そんな居場所が街のあちこちに息づいている。それこそが、この街の魅力と創造力を育んでいる。
街とは、ひとつのエコロジカルなシステムである。
 
(*出典:EIUs Global Liveability Index 2025 より)
 

「近接性」という原理

先日、カルロス・モレノ著『15分都市の実践』(日本語版)を手に取った。序文には、哲学者・三木清さんの「生活者」という言葉が引用されていて、思わず「よく知っているな」とうなずきながら読み進めていた。ところが本文に目をやると、この「生活者」という概念は「鷲尾和彦から教えてもらった」と書かれていて、驚いた。ああ、そういえば確かにそんな話をしたな、と記憶がふとよみがえった。
 
そのことも含めて、この本が著者自身の旅と出会い、街をじっくり観察する中で紡ぎ出された成果であることが、すぐに伝わってくる。そしてモレノさんは、必ず先人たちの功績やその継承に敬意を払う。序文を書いたのも、彼が深く尊敬するヤン・ゲールさんである。その姿勢に、どこか愛らしいものを感じながら、楽しくページをめくった。
 
「15分都市圏」という近接性に根ざした生活圏のあり方が今世界的に注目されるのはなぜだろうか。それは第二の近代(ベック)以降、個体化してしまった私たちを再び結びつける原理が「近接性」にあるということであり、「近接性」を通して、「まち(都市)」や「文化」は、他人任せではなく、自分たちでつくりだせるものだという実感を取り戻すことを実感できるのだということに改めて気づかせてくれることにあるのではないか。そして、そうした実感は、精神論や理屈だけではなく、デザインという現実の空間での体験を通してこそ得られるものだと思う。
 「生活する者」とは「つくる者」である。モレノさんはこの「生活者」という言葉から、その深い意味を読み取っていた。日本では日常的に使われる言葉だが、ここまで鮮やかにその意味を掬い上げた例はあまり見たことがない。結局のところ、人間とはどのように生きるのか、どのように存在するのかという問いこそが、鍵になるのだろう。
 
今度お会いする際には、もうひとつ、三木清さんの言葉を伝えたいと思う。
 
「人生においては何事も偶然である。しかしまた人生においては何事も必然である。」
(三木清『人生論ノート』より)