鷲尾和彦

英国へ

1週間後ですが、英国バーミンガムのでアーティストトークと映像上映を行ってきます。
パフォーミング・アーティストのAAKASH ODEDRAさんの新作「#JeSuis」のワールドプレミア公演の関連イベントとしてご招待頂きました。僕が上映するのは、2015年9月にオーストリア・ウイーン西駅のプラットフォームで撮影した、シリア、アフガニスタンなどから欧州の中心部へ鉄道で移動する人々の姿です。「ウェルカム・ヨーロッパ」というメッセージがプラットフォーム上にいくつも貼り出され、ウイーン大学の学生達やレッドクロスのスタッフが、次から次へと押し寄せる東から移動してきた人々を受け入れていたあの時、ものすごい数の人の波に偶然巻き込まれながら(僕は逆に西から東へと帰る途中でした)、そのまま数時間プラットフォーム上で、来る人来る人に話しかけながら写真を撮影していました。

その時一人の金髪の青年が僕に向かって「水ある?大丈夫?」と声をかけてくれましたが、僕はとっさに「ありがとう」としか言えませんでした。束の間一緒にプラットフォームで遊んだ名も知らぬ少女が、待ちわびたドイツに向かう列車に乗り込んだ瞬間、そして車窓の向こう側から手を振ってくれた彼女の泣いているような微笑んでいるような表情。たくさんの人と話しているうちに、なんだかここがどこの国で相手が誰なのかどんどん分からなくなってしまった感覚。
2年経った今もまだうまく整理がついていない部分も多いですし、こうして書いていても、いや違うなという気になってきてしまう。まるで抜けない小さな骨が胸に刺さったままのような感じです。2015年の秋と現在では欧州も状況が大きく変わりました。少なくとも今駅には「ウェルカム・ヨーロッパ」という張り紙はありません。

2015年のその経験から、ちょうど1年後の2016年秋、同じくオーストリアの元難民キャンプ跡地を使ったアートイベントでプリントの展示させていただく機会を頂きました。その時の展示を見たのがAAKASHのチームのプロデューサーの方で、今回英国にご招待いただくこととなりました。バーミンガムでは、移動する人たちの様子をプリントではなく、動き続けるイメージに、スライドショーにしたいと思っています。

今回の英国行きには、7歳になる娘を連れて行こうと思います。生まれて初めて1週間も母親のもとを離れるということで、彼女はとても緊張しています。でも見知らぬ国に行くことにちょっと期待もあるようです。あの時、車窓から手を振ってくれた少女もきっとそうだったんじゃないかなと思うのです。英国でのスピーチは、娘の様子を見ながら、本番直前に考えようと思っています。