鷲尾和彦

うを座のこどもたち

この冬一番の寒波が降らす大粒の雪が鈍色の海へと吸い込まれていく。 もうすぐ2年が経とうとしている。そのあいだに何度この海を訪れたことだろう。

昨年末に東京での公演を観たことがご縁で、「気仙沼演劇塾うを座」の練習風景を拝見する機会を頂いた。降り続ける雪の中、海辺から練習場である気仙沼駅前にある公民館へと向かった。「うを座」に参加している小学3年生から高校3年生まで7人の子どもたちが待っていてくれた。

「今だから、あなただから、伝えられることは何? あなた自身はどう変わったの?」

3月末の公演に向けての練習の初日。子どもたちを指導するKさんは、半日をかけて、そのことをひとりひとりに問いかける。子どもたちはKさんが投げかける言葉に真っ直ぐに向き合い続けていく。

子どもたちも、大人も、私たちはみな同じ壁に突き当たっている。 どうして私たちは忘れてしまうのだろう。 どうして言い訳ばかり探すのだろう。まだ間に合うだろうか。「あなたたちが感じていることはどれひとつ間違ってはいないの。」

5時間が経とうとしていた。外はすっかり陽が陰り、積もったばかりの柔らかな雪の上に蒼い影を落としていた。

「人に頼ってもいいんだと思いました」「やりたいことはやりたいって言えるようになりました」「思いを伝えたいという心が大きくなりました」。

今ここで生まれようとしているそれは、新しい「コトバ」の萌芽かもしれない。 時がもたらす忘却に抗い目の前にある分厚い壁を突き破ろうとするそれは、しかしとても小さくて消え入りそうだ。だけど、未来を呼び寄せるのは、そんな小さなものたちなのだと信じている。

(産経新聞 「After 311」連載 2013.2.24. )

 

 

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