鷲尾和彦

ある日

昨夜から降り続いていた秋雨が上がった静かな午後、僕は近くの海までいつもより少し長い散歩に出掛けた。秋模様に衣替えした風景の中、やがてくる春に備え、草花は柔らかい土の中でその小さな生命の息吹を温めようとしている。冬がそこまで来ているのだ。

海を見下ろす丘の上までやってきた時、草むらの中で、たった一輪だけ、湿り気を含んだ冷たい海風に吹かれながら、その小さな花弁を懸命に曇り空に向かって広げている赤い花を見つけた。その時、僕はこの小さな赤い花に出会うために今日はここまでやってきたんだなと思った。悠久の時の流れと、僕という小さな存在が交差する確かな実感。

そして、今日というある日が、特別な一日へと変わっていった。

一日は短い。ひとはその束の間にさえ、それぞれの意味を見出そうとする。それは綿々と続く自然の大河の中で、あまりにも一人のひとの人生が短すぎるからではないだろうか。

しかし、その短さを受けとめるとき、そこにはじめてささやかな希望が芽生えるような気がする。あの小さな赤い花は、そんな思いを呼び起こすに十分すぎるほど逞しくて大きな存在だった。

陽は西の海の向こうに傾き、ゆっくりと沈もうとしている。あの陽が沈む彼方の町では、また新しい一日がはじまろうとしている。

(写真展『One Day』のためのテキスト)

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