鷲尾和彦

Gentrification

venezia

 

9月に訪問したヴェネツィア・ビエンナーレのレポートを書いていて、自分で撮ったこの写真を見返してました。狭い路地と、その路地を抜けた先に突然現れる広場の魅力。これはこの街の魅力だと思うのですが、先日4年ぶりに訪問した際、意外とその路地が閑散としていた印象がどこか心に引っかかっていました。で、いろいろと調べたらこんな記事が。これは2015年までのインフォグラフィックス。かなり地元住民がヴェネツィア本島に住めなくなっています。ヴェネツィアへの年間観光客は約2000万人。ヴェネツィア本島の住民の数と比べると確かに凄い人数です。ちなみに日本への観光客が同じく2000万人程度だったと思います。観光業へのデモも最近は起きているようで。「ジェントリフィケーション」という言葉がここで使えるかどうかわかりませんが、気になるテーマです。同じく、路地と広場が魅力の街、バルセロナでも同じような課題があるようです。

「ジェントリフィケーション」とは比較的貧困層が多く住む地区、それゆえ低開発で停滞した地区に富裕層が移り住むことによって資産価値の高騰したり、低所得層の生活が圧迫されたり、立ち退き問題が発生したり、地域文化が損なわれたりする現象というか社会問題です。移り住んだ高所得者によって低資産価値の還元が行われてしまってもともと住んでいた人が住めなくなる。つながりが消え、一人一人が精神的な孤立感を抱えてしまい、結果的に地域コミュニティまでが壊れていく。
ロンドンオリンピックもレガシーばかり語られ、低開発地区がアートや文化の力で再生されたという話も聞くけど、最初はアーティストに自由な空間を与えて地域の活性化をしようとしたけど、結局地上げされてアーティストたちは出汁のように使われて住めなくなってしまった。僕がロンドンを歩いて現地のアーティストたちに聞いたのはそんな話でした。それも一部の意見かもしれないけど。地域住民を中心にして、その生活環境が改善されることを第一義において、そして必要以上の地価の高騰を抑えて、行政や民間期間が協力しながら、暮らしの質を上げていくことはどのようにして可能なのか。

ちなみに、この写真のような風景がヴェネツィアではあちこちで見られるように思いますが、実は数日間滞在した中ではこの場所だけでした。それは全くの偶然かもしれませんが、印象としては広場があまり広場らしくないなあという感じ。日本は現在2000万人を数年後には4000万人、6000万人規模へ拡大させるという戦略を描いていますね。もちろん、ゼロイチの身も蓋もない議論なんかではなく、もちろん全てがアートフェスのせいなんかでもなく。丁寧に考えていくことが大切なテーマなんだと思います。