2004.12.31 (Fri)  棲家

今年の大晦日は大雪になった。
2年間毎日歩いていたこの町ともあと数日。
何度もこの場所で写真を撮ったが、今日は降りしきる雪の中でいつもとまた違った表情を見せる。そういう発見が嬉しい。結局そんな沢山の発見を重ねていくことで、見知らぬ場所も自分の棲家になっていく。
年明けには、新しい町での生活が始まる。




2004.12.30 (Thu)  引越し準備

年明け早々の引越しのために、この年末は荷造り。
フィルムやプリント、書籍、レコードとCDだけでダンボール数十箱。
困った!




2004.12.27 (Mon)  写真

「北京はカメラは何で撮られたんですか?モノクロ? カラー? またみせてください。」と、京橋にあるギャラリーPUNCTUMの寺本君からメールがあった。

今回の北京はライカ&モノクロフィルムで撮ってきた。もう1台持っていったが、それは万が一壊れたりした時のためで、結局この黒くて小さなカメラ1台だけで大丈夫だった。
今回の北京に限ったことでなく、この数年間、旅の写真はコンパクトなカメラとモノクロームフィルムのセットで撮っている。カメラは何台か持っているし、(コレクターのような指向はないのだけど)ある程度の知識も持っている。でも何を使うかは、結局どんな旅をするかということと直結している話で、殆どひたすらに歩き続けることになる僕の場合は、小さなコンパクトカメラが一番身体に馴染む。

今回の北京では、古いコンパクトカメラで、しっかりファインダーを覗き、ひとつひとつ丁寧にシャッターを押していった。そうやってファインダーをじっと覗く度に、なんだか今でも初めてカメラを買った時の感覚を感じることが出来た。とても新鮮で、楽しく、まるで小さな子供のように路地を歩き回りながらワクワクしながらシャッターを押していった。まだ現像にも出していないので、それがどのような写真になっているのかは分からないのだけど、それでもそんな感覚を感じながらシャッターを押したということは確かだ。

20代の頃、ずっとギターばかり弾いていた僕は写真というものに興味は無く(正確に言えば興味が無いというよりも興味を持つほどの余裕が無かった)、10代後半から続けていたバンドが解散するまさにタイミングで全くの偶然に「写真」に出会った。そして、その時初めて安い一眼レフカメラを購入したのだが、それが1995年頃であったと思う。

当時僕の仕事場から歩いて2分ほどのところにあった、ある写真スタジオの暗室部長のTさんに「すみません、暗室作業教えてください」と突然押しかけて、プロのカメラマン達が使わない合間の暗室を無料で使わせてもらった。Tさんはとても親切に部下のプリンターの人を僕に紹介してくれた。そして僕は数名の熟練のプリンターの方々に暗室の「いろは」を教えてもらった。

「これ以上、あんまり写真なんか勉強しなくていいよ。」と初めて出来上がったプリントを見ながら、暗室の中でプリンターのおじさんが初心者の僕にそう語ったことを今でも覚えている。
その時はどういう意味なんだろうと思ったのだが、それが今ではよく分かる。

写真は撮るのは、まるで眼を洗うように新鮮な眼で世界を見続けることなのだと思う。そしてたぶんそれが出来なくなったら写真なんか撮ることは出来ないし、撮る理由もなくなるのだと思う。プリンターのおじさんが僕に教えてくれたのはそういうことだったのだ。

暗室部長のTさんも数年間にお亡くなりなり、その写真スタジオもモノクロームの暗室をやめてしまったそうだ。プリンターのおじさんたちがどこにいらっしゃるのかも今では分からない。でもいつか近いうちに、おじさんたちに僕が今撮っている写真を持って会いたいと思っている。

古いカメラで粉雪が舞う北京の町を撮影しながら、僕はそんなことを考えていた。




2004.12.24 (Fri)  聖夜

「真の革命は愛という偉大な感情によって導かれる」(エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ)



2004.12.23 (Thu)  カチア

友人の藤島君と一緒に、東京日仏学院で行われた「French X'mas Fete 」にCatia(カチア)の歌を聴きに行く。Catiaはブラジル・リオデジャネイロ出身でパリ在住のボサノヴァ・シンガー。ちょうど1年前の12月、僕と藤島君はTV×インターネット番組の取材スタッフとして彼女に出会った。藤嶋君はTV撮影班のADとして、この番組企画の立案者であった僕は同時にインタヴューと写真撮影も担当していた。

彼女がデヴューのきっかけを掴んだというオーベルカンプにあるカフェ・シャルボン、彼女がパリで最初に歌ったレ・アールにあるクラブ「ベゼ・サレ」、パートナーのマルセロと子供達と一緒に暮らしている自宅、そして「ブルーノート」でのライブ、朝から夜中までパリの中を移動しながら1日を一緒に過ごし、色んな話しをして、僕は沢山の彼女の写真を撮影した。

その後2度ほど日本で唄うためにCatiaは来日していたのだが、僕の都合が上手く付かず、結局今日ほぼ1年ぶりに彼女の歌を聴くことが出来た。

初めて聴いた時から僕はすっかり彼女の声の虜になってしまった。強くて優しい、というか優しさというのは強さなのだ、ということを感じさせる声。それは彼女の存在そのものを見事に表していた。彼女の声を聞くと本当にすーっと包み込まれるような感覚になる。表現するというのは歌でも他の方法でも結局その人の魅力そのものでしかないのだなあ、とCatiaの声はそんなもっともなことをつくづく感じさせてくれる。そしてそのことは僕をポジティブにしてくれるのだった。

そんな声、そんな歌にまた今夜再会することが出来た。

ライブではTheBoomの『島唄』をCatia流のアレンジで唄ったり(この曲の作者である宮沢和史さんも会場にはお見えになっていた)、今日の共演者だったDois Mapas(ドイス・マパス)の皆さんと一緒にブラジルのクリスマスソングを歌ったり、楽しい内容だった。

ステージの後、僕は彼女に彼女の子供たちへのクリスマスプレゼントとして「トトロ」の絵本を渡して、藤嶋くんも一緒に再会の記念写真を撮った。
短い時間だったけど、またCatiaにポジティブなパワーを貰うことが出来て、とてもうれしいクリスマスの一夜を過ごすことが出来た。この次に彼女の歌が聴けるときが、もう今から待ち遠しい。



2004.12.21 (Tue)  北京から帰国

昨夜、北京から帰国。
非常に短い期間に企業資本主義と情報化と国際化が一度に押し寄せているその様相には正直かなり驚いた。
胡同(フウトン)と呼ばれる路地や四合院づくりの典型的な民家があちこちで一斉に取り壊され背後には超高層マンションが聳え立つ姿は異様さすら感じた。
わずか1週間という短い滞在だったけれど、毎日北京市内のあちこちを歩き続け、様々な風景を見てきたと思う。勿論、それで初めて訪れた町を理解したなどということはありえないのだけど。少しずつ思い起こしながら、感じたことを書いていきたいと思う。取り急ぎ、帰国報告として1枚。



2004.12.14 (Tue)  北京へ

昨日、ヴォルフガング・ティルマンズの写真展をようやく見た。
2000年ターナー賞ノミニーの際にTateBritainで行われた展覧会を見て以来4年近くぶり。
開かれた世界に対する惜しみない愛情とサバイブするための知性。
とても素晴らしい体験だった。写真にはやはり凄い可能性があるのだと高揚した。
感じたことが沢山あるので、改めて自分の中で反芻しながら言葉にしてみたいと思う。

今は明日からの北京行きの準備中。
平均気温氷点下だそうで、寒さ対策を万全にして北京の町を歩き回りたい。
帰国は20日過ぎ。PCは持参しないので、次回は1週間後に。
では!



2004.12.10 (Fri)  インディアン・サマー

先週の日曜日は冬の「真夏日」になった。
昼間は目黒~学芸大学近辺、そして世田谷線沿線のスナップを撮りながら歩き、その後、世田谷233の中根氏を訪ねた。
午後から第3京浜、横浜新道を飛ばして、逗子へ。
なんとか夕陽が沈む前に、葉山マリーナから(おそらく今年最後になるだろう)インディアンサマーの海を見ることが出来た。




2004.12.08 (Wed)  人工衛星

(12月6日の続き)

フラットな時代には垂直の視線は見失われる。
高くは登れないし、かといってそれほど低くに墜ちていくことは無いだろう。
そんな都合の良すぎる楽観。
そこでは確かに近接も遠隔もない。
近くに居ることも出来ない、そして遠くを視ることも出来ない。

もしも写真に希望があるとしたらたぶんそこなのだと思う。
世界と「ワタシ」の狭間に立ち、人工衛星のように映像や詞を送り届ける。
地上からの視線と宙からの視線が交わる繊細なバランスの上の1点。
無重力とは、重力から解き放たれた状態というよりも、
地上と宙の両方から引力を感じている状態かもしれない。
二重の引力。そして「ワタシ」自身が人工衛星。
今こうしている間にも廻り続けている無数の人工衛星のことを
時々思い出し、そんな風に想いを馳せるときがある。


再来週から、北京へ行きます。



2004.12.06 (Mon)  言葉の海

「でも、ぼくは徹底して地球的な、地上的な人間だよ。しばらく前までは、人はみんなぼくみたいだった」
「しばらく前って?」
「1万年くらい。心が星に直結していて、そういう遠い世界と目前の狩猟的現実が精神の中で併存していた」
「今は?」
「今は、どちらもない。あるのは中距離だけ。近接作用も遠隔作用もなくて。ただ曖昧な、中途半端な、偽の現実だけ」 (池澤夏樹/『スティル・ライフ』より)


未だに写真とは何かという問いには応えられないのだが、この文章にはどこかそんなもどかしい心根に引っかかるものがあった。普段から気にかかって放っておけないこと、鞄の中にいつも持ち歩いていていたり、日記やメモ書きのすみっこに書いたまま気になっている言葉。

9月から10月にかけて1ヶ月間、世田谷233「head to the sky」という写真展を行ったのだが、その時もずっとこの言葉(というか感覚)が気になったままだった。それは今も続いている。たぶんこっちかな、と思いながら撮るだけなのだ。

小説家の凄さはそんな問いや謎への回答をとても明瞭で分かりやすい言葉で描きだしてしまうところだ。僕なんか半分以上はよく分からないままに、シャッターを押し続けているというだけなのに。
写真展が行われていたまさにその時、僕はヨーロッパや沖縄に出掛けていた。その時撮影した写真はまだ現像したままで、ちゃんとネガを見てもいないし、プリントにも着手していない。このかわりに僕は沢山の本を読んでいる。
「写真」を意識せず、「写真」から自由になって、物語の海を泳ぐのは気持ちいい。
本を読むといっても頭でっかちになるのではなく、むしろそれとは全く逆にとてもフィジカルな感じ。一緒に旅をする感じ、深く息を吸い込みながら一緒に泳ぎ渡るような感じ。
(小説を読むことがとてもフィジカルなことであるというのは最近の発見かもしれない。)

前述の小説家の言葉は、いくつかの「言葉の海」を泳いでいる時に出会った小さな「島」だ。その「島」には食料や水があるのだろうか。しかしそこには何かの「救い」や「希望」の欠片が砂浜に落ちている直感だけは確かにあるのだ。Message In The Bottle。
もう少し「島」の周りを泳ぎながら探索してみようと思う。
ネガを見るのはその後だな。



2004.12.03 (Fri)  KYOTO JAZZ MASSIVE

恵比寿ガーデンホールにKYOTO JAZZ MASSIVEのライブを観にいく。
10年目にしてフルバンド編成でのライブは今回が初めてだそうで、ステージ上の沖野修也さんもなんだかテンションが上がっているようだった。
沖野さんのエージェント(マネージャーと呼ぶと怒るんだよな)のT氏は先輩。またKJMの出版権を管理しているのが後輩ということもあって今夜はご招待いただいた。
沖野さん自身も以前に何度かお会いしてお話したことがある。気さくで優しい人だ。
沢山お客さんが入っていて、ライブもアットホームな感じ。これも好きなことを長年続けている結果なんだろうな、と思った。



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